近年、少子高齢化が止まることを知らず、特に中小企業では後継者不足が顕著となっており、積極的にM&Aの実施が検討される事例が後を立ちません。
本記事では、売却企業からみた会社売却のメリット及びデメリットや売却金額の相場及び手順などを解説致します。
会社売却とは
M&Aは、売却企業の視点で見た場合、会社売却という言葉で表現することが可能です。近年、企業が会社売却を考えるきっかけとして多く挙げられる理由は、後継者が不在であるためと言われています。
東京商工リサーチが実施した、2020年「後継者不在率」調査(https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20201113_01.html)によると、2020年における企業の後継者不在率は57.5%となっており、前年2019年よりも1.9ポイント上昇していることが判明しました。
後継者不在のまま会社を廃業してしまうと、従業員の雇用が守られないといった問題や、主要取引先が連鎖倒産してまうといった問題が発生してしまい、自社だけの問題ではなくなってしまいます。そのため、事業承継を積極的に検討する企業が増加しており、活発に会社売却が実施されるようになりました。
関連記事:後継者のいない会社を買う具体的な方法を徹底解説!メリットデメリットも解説
会社売却の相場【計算法別】
会社売却の相場は、M&Aスキーム(方法・手法)によって変動します。
後述する【会社売却の方法・種類】で、詳細を解説致しますが、会社売却は「株式譲渡」または「事業譲渡」のいずれかの方法で実施されます。企業の一部の事業を売却する「事業譲渡」よりも、企業全体の株式を売却する「株式譲渡」の方が相場が高くなりやすいです。
会社売却の際の価値算出方法には、様々な方法があります。売却企業の規模や事業内容、経営状態などによって、都度最適な価値算出方法を選択する必要があります。
数ある価値算出方法の中でも、代表的な3つの方法を抜粋し、特徴と流れについて解説致します。
コストアプローチ(純資産法)
特徴
・他の計算方法と比較して最も容易に算出が可能
・売却企業の帳簿を参照し、時価純資産を売却金額とする
・他の計算方法と比較して、算出される企業価値の正確性は低い
流れ
・株式譲渡:純資産+(営業利益+役員報酬)×2〜5(年)
・事業譲渡:事業資産+事業利益×2〜5(年)
インカムアプローチ(DCF法)
特徴
・DCF(ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー)は、最も知名度のある算出方法
・売却企業の将来のキャッシュフローを現在価値で割り引いて算出
・他の計算方法と比較して、最も正確に企業価値を算出可能
流れ
①事業計画を元に、予測期間分(数年)のFCF(フリー・キャッシュ・フロー)を算出
②割引率を算出
③残存価値の算出
④FCFを現在価値に割引く
⑤予測期間のFCFの現在価値の合計値+残存価値を算出
マーケットアプローチ(類似会社比較法)
特徴
・売却企業と事業内容及び規模が類似している他社と比較し、売却金額を算出する方法
・既存の上場企業の財務指標を利用するため、参考データの取得が容易
流れ
①売却企業と類似している上場企業を数社ピックアップ
②売却企業とピックアップした企業を比較し、経営指標上、売却企業の規模を算出
③ピックアップした会社の株価に経営指標の倍率(主に※EBITDA)を当てはめ、売却企業の株価を算出
※EBITDAとは、企業の税引き前利益に支払利息と減価償却費を加算したもの(企業価値÷利払い前or税引前or減価償却前orその他償却前利益)
関連記事:会社買収の相場はどのくらい?買収の流れや相場からメリット・リスクまで解説!
会社売却の金額を決める要素
株式譲渡または事業譲渡どちらにしても、売却企業はなるべく高値で売却を行いたいと考えます。事前に会社売却の金額を決める要素をしっかりと認識しておくことで、より高値で売却を実施することが可能
です。会社売却の金額を決定する要素としては、以下の点が挙げられます。
- 会社売却のタイミング
- 質の高い顧客リストの保有
- 優秀な人材の保有
- 知的財産権の保有
- シェア・ブランド力
会社売却のタイミング
売却企業側の経営状況によって、会社売却の金額は大きく変動
します。売却企業の業績が好調であればあるほど高値で売却される可能性が高くなり、逆に経営状況が悪化している時には売却額は低くなるあるいは買い手が見つからないといった事態にもなりかねませんので、会社売却のタイミングはきちんと見定めることが大切です。
質の高い顧客リストの保有
大手メーカーが取引先であるなど、新規取引契約が比較的困難であるような質の高い顧客を保有していると、売却企業の価値は高いものと判断されます。
優秀な人材の保有
事業を営んでいる人材も資産として考えます。例えば、薬剤師のような国家資格などを有する優秀な人材などを保有していると、買収企業からは魅力的であり売却企業の価値は高く算出されます。
知的財産権の保有
他社には真似できない有名な特許や商標権等を数多く保有しているほど、売却企業の価値は高くなります。
シェア・ブランド力
売却企業が業界内で高いシェアを誇っていたり、有名なブランドを保有していたりすると、企業価値は高くなる傾向があります。
関連記事:企業価値とは?時価総額や事業価値との違いや算出方法をわかりやすく解説
会社売却の方法・種類
会社売却の方法には、様々なスキーム(方法・手法)が存在します。選択するスキームによって、売却企業の経営者の利益や納税額、手続きにかかる時間等に違い
が出てきます。
本項目では、代表的な「株式譲渡」及び「事業譲渡」の2種類の特徴及び会社売却額へかかる税金について解説致します。
会社売却の代表的なスキーム
株式譲渡
特徴
・売却企業の株主(大抵の場合経営者)が保有している株式を、買収企業の経営者などへ売却を行う
・会社売却のスキームの中で最もメジャー
会社売却額への税金
・税金の種類:所得税及び住民税
・税率:約20%(内訳・・・所得税:約15%、住民税:5%)
・課税方式:分離課税
・納税者:株主
事業譲渡
特徴
・売却企業が行っている事業の内、一部の事業のみを買収企業へ売却を行う
会社売却額への税金
・税金の種類:法人税及び消費税等
・税率:約40%(内訳・・・法人税約30%、消費税10%)
・課税方式:総合課税
・納税者:法人
上記表から読み取れるように売却企業の経営者にとっては、会社売却の税率が低い「株式譲渡」の方が利益額が増加する可能性が高い
と考えられます。そのため、一般的に会社売却が検討される時には、まず最初に「株式譲渡」による売却が検討されます。
一方で、会社売却によって得た利益を会社(法人)のものとしたいと考える経営者は、敢えて「事業譲渡」を選択するというケースもあります。
会社を売却するメリット
売却企業にとって、会社売却を行うメリットはいくつかあります。売却企業は、どのメリットを重視するのかを明確にした上で会社売却を計画し、買収企業と条件を擦り合わせていくことで円滑な会社売却に繋げていくことが可能です。
本項目では、特に代表的なメリットと言われている下記の4つについての詳細を解説致します。
- 売却企業の株主(主に経営者)が利益を得る
- 連帯保証から外れることが可能
- 円滑な事業承継が可能
- 買収企業とのシナジー効果を見込める
売却企業の株主(主に経営者)が利益を得る
株式譲渡による会社売却を実施した場合、売却企業の株主から買収企業の経営者などに株式の売却を行うため、売却企業の株主(主に経営者)が多くの利益を手にします。株式譲渡は、会社売却のスキームでありながら会社同士の金銭のやりとりではなく、あくまで株式の移動となるためです。
例えば中小企業の場合、経営者が株式を100%保有しているケースが多く、その場合経営者自身に税金を抜かれた分の利益がそのまま入ります。
ベンチャー企業であれば、経営者以外の従業員及び役員等にも※ストックオプションを渡している場合が多くあるため、経営者だけでなくストックオプションを行使した方にも利益が分配されます。
※ストックオプションとは、株式会社の従業員及び役員が自社株をあらかじめ定められた価格で取得可能な権利のことです。ストックオプションを与えられた従業員及び役員は、将来自社株の株価が上昇した時点などでストックオプションの権利を行使し、株式を取得します。
連帯保証から外れることが可能
中小企業の経営者が持つ悩みの一つとして、連帯保証が挙げられます。連帯保証があるため、自身の子どもや経営幹部等に事業承継しづらいのです。しかし、自社を上場企業等へ売却を行うことができた場合、ほぼ連帯保証が外れるという事実があります。そのため、中小企業の経営者は積極的に会社売却を視野に入れていることが多いです。
円滑な事業承継が可能
経営者が高齢でありながら、後継者がいないといった理由で会社を廃業にしてしまうと従業員の雇用が守られないだけなく、主要取引先にも迷惑がかかってしまうことがあります。そのため、会社売却を検討する経営者が多くいるのが現状です。
自社よりも大きな規模の上場企業へ売却を行う場合は経営の安定が期待されるため、従業員の安心感を得ることが可能
となります。しかし、場合によっては買収企業が売却企業買収後に、売却企業の従業員のほとんどを解雇してしまうという事態も少なからず発生しています。
元々、自社従業員の雇用を守りたいという目的で会社売却を実施する場合には、買収企業による売却企業の従業員の解雇を防ぐためにも、売却企業の経営者は買収企業に自社を売却する前の交渉の段階で、自社の従業員の雇用を守ることなどを条件にしておくことが推奨されます。
買収企業とのシナジー効果を見込める
会社売却における最も大きなメリットと言えるのが、売却企業及び買収企業との間の※シナジー効果を見込めるという点です。大抵の買収企業は売却企業を買収することで、一定のシナジー効果があるという前提で買収を決定
します。
もちろん売却企業としても、特に事業譲渡を選択する場合は自社の事業のうち、自社だけでは上手に利益を出すことが難しい事業が買収企業と組み合わさることで、利益を出すことができる事業になると考えて事業譲渡を行なうことが多いです。逆に好調な事業を譲渡し、譲渡で得た資金を不調な事業に回したり新しい事業を興したりする際に、事業譲渡の選択を行う場合もあります。
※M&Aにおけるシナジー効果とは、売却企業及び買収企業が統合することで生じるプラスαの相乗効果のことを意味します。
関連記事:M&Aのメリット・デメリットを買い手・売り手に分けて徹底解説
会社を売却するデメリット
売却企業においては、会社売却を行うことで一定のデメリットが生じることがあります。前述したメリットだけでなく、デメリットもきちんと把握した上で会社売却に踏み切る必要
があります。
本項目では、特に代表的なデメリットと言われている下記3つのデメリットについて、詳細を解説致します。
- ロックアップの発生
- 会社売却後の事業領域の制限
- 経営者に対する非難や、経営者自身の寂しさ
ロックアップの発生
ロックアップとは、会社売却後の数年間、売却企業の経営者や役員などが会社売却後も数年間子会社の社長として経営に携わったり、1年程度顧問として経営に携わったりという契約を交わし、買収企業側の新経営陣が事業運営ノウハウを引き継ぐための期間のことを指します。すなわち、急な経営陣の入れ替えによる企業価値の低下を未然に防ぐための期間です。
必ずしも、ロックアップが発生するわけではありません。あくまで買収企業との交渉により、ロックアップを設定するか否かが決定されます。売却企業の経営者が会社売却後すぐに別の事業を行いたと考える場合、売却価格が下がったとしてもロックアップを設けない契約にすることが重要です。
会社売却後の事業領域の制限
売却企業の経営者が注意しなければならないこととして、競業避止義務が挙げられます。競業避止義務とは、会社売却後一定期間、売却した事業と同じ事業領域に携わることが禁止されることです。大抵の場合、会社売却後2〜3年間に設定されますが、時には5年という実例もあるので売却までの間にきちんと期間の交渉を行うことが重要です。
時には経営者としてだけでなく、役員及び従業員、株主及び顧問という立場でも同事業領域に携わることが不可能になる場合もあります。
特に事業譲渡の手法の場合、会社法21条にも競業避止の規定があるため注意が必要です。もし、競業避止義務に違反した場合には会社法に抵触しているとされ、損害賠償請求されてしまう可能性
もあります。
経営者に対する非難や、経営者自身の寂しさ
売却企業の経営者は、会社売却後、非難に晒される場合も少なくありません。伝統ある会社を外資系の大企業に売却したり、会社売却後に経営陣が変わったことで会社の方針が大きく変わってしまったりした場合に、元従業員より非難されるということが多いです。
また、経営者自身が売却後の会社に残らないというケースの場合、会社売却後に寂しさを感じてしまうという声が多くあります。寂しさを感じてしまうことは致し方ありませんが、会社売却後の利益を元手に何をしたいのかということを事前に計画しておくと、会社を売却した後の寂しさや喪失感が少なくなるのではないかと思われます。
会社を売却する手順
売却企業として、自社を売却する手順は下記の通りです。
1.会社売却意思の発生
売却企業が後継者の不在や、好調事業拡大及び新規事業開拓等といった理由で、会社売却の意思が発生します。
2.必要資料の準備
会社及び事業の売却を行うことが決定次第、過去3期分程度の決算書類含む必要書類の準備を行います。
3.買収企業のソーシング
売却先となる買収企業を探します。買収企業を探す際には、M&Aの仲介会社をはじめ、税理士や公認会計士等の各専門家及び金融機関等を最大限に活用しましょう。
4.秘密保持契約(NDA)の締結
買収企業候補が現れた場合、交渉開始前の段階で秘密保持契約(NDA)の締結を行います。秘密保持契約を締結していない場合、本来非公表の情報が表に出てしまう可能性も否めません。相互に信頼をおくためにも、必ず秘密保持契約は締結しておくことが重要です。
5.企業概要書(IM)の提示
企業概要書(IM)には本来非公表の自社の機密事項が記載されており、買収企業は企業概要書(IM)記載の情報を元に、想定買収価格や基本条件を売却企業に提案します。その際、双方の企業に交渉の継続意志がある場合のみ、次のステップへ進むことになります。
6.トップによる面談の実施
トップ面談では主に、双方の企業文化及び経営者同士の考え方について大きくずれているところがないか、確認し合う機会となることが多いです。
7.基本合意書の締結
トップ面談実施後、双方が基本条件に合意した場合は基本合意書の締結となります。基本合意書を締結してからが本番といっても過言ではありません。基本合意書には、双方の企業が法的な責務及び賠償責任なく、双方どちらかの意志で取引を中止することが可能である旨が明記されます。
8.買収企業による売却企業のデューデリジェンスの実施
基本合意書が締結された後、買収企業は売却企業側にデューデリジェンスを実施します。デューデリジェンスとは、売却企業の価値や潜在的なリスクなどの詳細を調査することです。
9.買収企業からの希望買取額の提示
デューデリジェンス実施後、買収企業から希望買取価格が改めて提示されます。この価格は、デューデリジェンスの結果を加味したものです。
10.条件交渉
双方の企業は、希望買取価格をもとに最終的な条件交渉を行います。
11.契約締結
双方の企業が条件交渉に納得及び合意した場合、契約の締結となります。
12.クロージング(売却実行)
契約で合意した内容をもとに、双方が売却のために必要な履行義務の事項を実施します。その後、クロージング(売却実行)を実施するための準備及び条件がクリアとなった段階で、正式に譲渡代金の支払いが行われます。
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