経営者の中には「現在の事業を売却したい」「事業を譲り受けて新部門を展開したい」と、事業売買を検討する方も多いと思います。
はじめてM&Aをされる方にとっては、どのような手順で進めたらよいのか、どの程度の費用がかかるのかなど不安に思うことも多いと思います。
そのような悩みがある際に役立つのが、M&Aの専門家である仲介業者の存在です。
M&A仲介業者は専門的な知見と経験により、企業のM&Aを強力にサポートしてくれます。しかし、M&A仲介業者の数は多く、手数料の決め方も会社によって異なるため、どこを選んだらよいか判断が難しいことも少なくありません。
この記事では、M&Aを検討している方に向けて、業者を選択する上で大きなポイントとなるM&A仲介業者の報酬や手数料の相場などについて詳しく説明します。
M&Aにかかる手数料の相場
M&A仲介会社を利用する場合には、一定の手数料や報酬が必要となります。報酬額は作業プロセスごとに決まっており、その金額も仲介業者により変動します。一般的なプロセスごとの、料金の種類と相場について説明します。
一般的なM&A仲介会社におけるプロセスごとの相場は、以下の通りです。
- 相談料:0円~1万円
- 着手金:0円~200万円
- 中間金:0円~100万円(または成功報酬費用の10%~20%程度)
- デューデリジェンス費用:0円~200万円
- 成功報酬費用:買収金額×5%程度
- リテイナーフィー:月額0円~50万円
- 業務実行にかかる実費:弁護士などの専門家への謝礼、交通費、宿泊費など
M&Aにおいて、上記プロセスすべてが必ず発生するわけではなく、状況によって省略される場合がございます。また、小規模な個人事業のM&Aの場合には総額でも数百万円程度で済むケースもありますが、大規模な事業では数億円単位となるケースも存在します。
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相場を参考にするときの注意点
M&Aでは、企業の規模だけでなく、手続き内容や事業の複雑さによっても金額が変動します。各仲介業者には得意とする領域やそれぞれの強みがあるため、費用が安いか高いかということだけでなく、自社の目的とするサービス(成約までの速さ、対応の良さ、提案力の高さなど)が受けられるか
というところも重視する必要があります。
M&Aの仲介を依頼する際は、自社の事業の内容やM&Aの目的を考慮した上で、「どのような種類の費用がかかるのか?」「手数料は相場と比較して妥当なのか?」を確認し、複数の業者の見積もりを検討することを推奨します。
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M&Aで支払う手数料の種類
M&Aを行う際に仲介業者へ支払う手数料には、いくつか種類があります。種類ごとの手数料の概要について、詳しく解説します。
M&Aに関する手数料の種類
相談料
相談料とは、M&A仲介業者に正式な手続きを依頼する前の相談の際に支払う手数料
です。現在、仲介会社が相談料を無料とするケースも散見されます。しかし、通常は1回の相談または時間ごとに相談料が発生するケースが大半です。
そのため相談をする際には、最初の問い合わせの際に相談料の有無を確認しておくことをおすすめします。
着手金
着手金は、正式な仲介契約を依頼した場合にM&A仲介業者へ支払う費用
です。
着手金は、候補先企業の調査や売却価格の算定などの稼働費用・調査の人件費に使われるため、一度支払った場合には途中でキャンセルをしても返還されないのが普通です。
着手金の支払いに抵抗があるという場合には、着手金無料の会社を選ぶという選択肢もあります。しかし、着手金は調査をするためにかかる人件費やその他の経費であり、精度の高い適切な調査を希望するのであれば、必要になることも理解して依頼しましょう。
中間金
中間金とは、M&Aに関する基本合意契約を締結した際に支払う手数料
です。定額料金のほか、成功報酬の形式で料金が設定されているケースや中間金が発生しない会社もあります。
なお、基本合意契約とは、譲渡企業と買い手予定企業の双方で希望する条件がほぼ固まったときに締結されるもので、主に双方に売却・買収意思があることを確認する目的で支払われます。
デューデリジェンス費用
デューデリジェンスとは、Due(正当な)、Diligence(努力)ということを意味し、省略して「DD(ディーディー)」と呼ばれることもあります。
デューデリジェンスは、譲渡の対象となる企業の財務内容や事業状況などを調査し、M&Aを行う際に問題となる点やリスクがないかを事前に調査するものです。
デューデリジェンスの対象となる主な項目としては、「事業面」「財務・会計税務面」「法務面」の3つの分野がありますが、企業の規模が大きい場合にはこの他に労務・人事、システム、環境などが調査の対象となることもあります。
成功報酬費用
成功報酬費用は、M&Aが成立して最終契約の締結をした際にM&A仲介会社へ支払う手数料です。契約が不成立に終わった場合には不要となります。
なお、成功報酬額の算定にあたっては、株式譲渡対価や移動総資産、企業価値などの基準に基づき企業価値の判定を行います。そのため、同じ算定方式を使っている場合でも、基準としているものが何かにより金額が異なります。
リテイナーフィー
リテイナーフィーとは、M&A仲介会社へ毎月支払う月額の定額手数料、つまり顧問料
です。リテイナーフィーの対象となる期間は、M&A候補先の紹介から交渉終了までとするのが一般的です。
相手先企業が見つかるまで時間がかかる場合には、それに比例してリテイナーフィーの額が多くなります。
雑費
M&Aにかかるその他の費用としては、弁護士などの専門家への謝礼、調査のための交通費や現地宿泊費などがあります。特に、弁護士などの専門家に業務を外注する場合には、別途で着手金や成功報酬が必要となることもあるため注意が必要です。
レーマン方式
レーマン方式とは、M&Aが成功した買収価格のレンジによって手数料率が変動する計算方法です。売却額が高くなるほど、成功報酬の率が低くなる点が特徴です。成果の大きさに応じて報酬が決まるため、多くの仲介会社で採用されています。
ただし、手数料率やレンジの設定については会社によって異なるため、よく確認してください。
M&A仲介の主なプロセスと手数料
M&Aでは、成約までさまざまなプロセスが必要となり、その際に発生する手数料も異なります。ここでは、各プロセスとその際に必要となる手数料の相場について解説します。
事前相談と相談料
M&Aをするには、目的の明確化や戦略方針の検討、M&A委託業者の選定、候補先探しなどを実施する必要があります。
そのため、いきなり手続きに着手するのではなく、これらの項目について専門家のアドバイスを受けて取り組むことが不可欠となりますが、その場合には相談料が必要となることがあります。
相談時の手数料については無料の場合が多いですが、相談料がかかる場合でも1万円程度が目安となります。ただし、時間に関係なく手数料が定額となっているケースやタイムチャージ制となっているところも存在するため、相談時には事前にご確認ください。
相談料:無料~1万円
業務委託と着手金
M&Aの着手金は、M&A仲介業者に正式に業務委託契約(アドバイザリー契約)をする際に支払う手数料をいいます。着手金は、M&A仲介会社によって必要となるケースと不要のケースがあります。
着手金が必要となる理由としては、主に次の2つがあります。
① 候補先企業に関する情報の取得や選定など、先行してかかる経費にあてるため
② 本気度の低い企業からの依頼を排除するため
①については、仲介業者がM&Aに関する作業を始めるには、候補先企業に関する情報の収集やそれらの絞り込みなどを行う必要がありますが、その際には調査のための人件費や交通費、宿泊費などがかかります。そのため、これらの経費に充てるために着手金が必要となります。
②については、依頼する会社の中には、「単に、自分の会社の売却相場を知りたいから」や「将来、M&Aをするときの参考にしたいから」などといった、本気度の低い理由で申し込む会社もございます。
しかし、一定の着手金を徴収することにより、成約につながらない依頼を事前に排除することができ、効率的に業務を行うことが可能となります。
また、M&Aの着手金を支払うことはM&A仲介会社との信頼が得られる、丁寧な準備をしてもらえるなど、依頼者側にとってもメリットがあります。
なお、着手金の額は最初に行う業務の内容によって異なりますが、50万円~200万円が相場となります。
業務委託・着手金:50万円~200万円
最低手数料・報酬
現在、多くのM&A仲介会社が成功報酬の計算方法としてレーマン方式を採用しています。
レーマン方式では、企業の売却価格などをもとにパーセンテージをかけて計算されるため、その価格が小さいほど成功報酬の額が小さくなる特徴があります。
M&A仲介会社では、専門家を多く抱えており多額のコストがかかるため、小さな成功報酬額では利益を出すことが難しくなってしまうケースが少なくありません。このようなことを防止するため、手数料や報酬については最低額を設けている会社がほとんどとなっています。
一般的なレーマン方式による手数料率は、以下のとおりです。
譲渡等の金額 | 手数料の率 |
5億円以下の部分 | 5% |
5億円超10億円以下の部分 | 4% |
10億円超50億円以下の部分 | 3% |
50億円超100億円以下の部分 | 2% |
100億円超の部分 | 1% |
なお、成功報酬の最低手数料の相場は500万円〜2,000万円となります。
中間報酬
中間報酬とは、M&Aの基本合意書を締結した際に発生する手数料です。しかし、M&A仲介会社によっては、トップ同士の面談の時やデューデリジェンスの実施時に設定している場合もあります。なお、基本合意書とは、売却側と買手側の双方の企業で基本的な条件に合意した際に取り交される書面となります。
中間報酬が必要となる理由としては、もし完全成功報酬制の場合に基本合意書の締結前に何らかの事情でM&Aが不設立となると仲介会社は無報酬となってしまうため、このような事態に備えて中間報酬を設定しているケースがほとんどです。
中間報酬の相場は約50万~200万円
、もしくは成功報酬の10%前後
となります。
中間報酬はM&Aが成立しなかった場合でも返金されませんが、これは成功報酬の一部の前払いとなるため、成約時は成功報酬から差し引かれます。
リテイナーフィー
リテイナーフィーとは、M&A仲介会社に対して一定期間、毎月支払われる定額の顧問料をいい、対象期間における調査や定期的なアドバイスなどの業務に対して支払われる報酬となります。このリテイナーフィーと成功報酬は別物であり、業務成功時に成功報酬の中から差し引かれるものでもありません。
リテイナーフィーは毎月安定した利益が望めるため、これを支払うことで継続的に候補先の情報を受けられたり、丁寧なサポートをしてもらえる可能性があります。しかし、金額が高額となりやすいため、成約までの期間が伸びるほど依頼企業の負担が大きくなるという問題もあります。
なお、リテイナーフィーの対象期間はM&A候補先の紹介から交渉終了までの範囲で設定され、金額の相場としては100万円~200万円というのが一般的です。ただし、最近ではこれを取らない仲介会社が多くなっています。
デューデリジェンス(調査)費用
デューデリジェンスは、買収や譲受会社が相手先企業に対して行う、財務や業務に関する事前の調査です。これを行うことにより、簿外債務や偶発債務、法律上の手続きの不備の確認や訴訟となるリスクを軽減することができます
デューデリジェンスの対象項目としては、財務・税務に関するものがメインとなりますが、それ以外にも必要に応じて法務・労務・許認可等などについても行う場合があります。
デューデリジェンスの費用は調査項目にもよりますが、一般機な財務・税務に関するデューデリジェンス行った場合の相場の額は数十万円〜200万円程度となります。
関連記事:デューデリジェンス(DD)とは?意味からM&Aにおける必要性と実務上のポイントまで完全理解
成功報酬
M&Aの完全成功報酬は、成約まで手数料がかからない料金体系です。
着手金や中間金等の手数料は発生せず、M&Aが成約した段階ではじめて手数料が発生する料金体系のため、最近では多くの仲介会社で取り入れられています。
成功報酬型サポートのメリットとしては、「初期や中間で支払う費用が不要」「報酬を得るために仲介会社が本気になりやすい」「M&Aにかかる費用がわかりやすい」などがあります。しかし、一方で「着手金等がないため、手続きに遅れが生じてしまう可能性がある」「成約の見込みが少ない場合には後回しにされやすい」「顧客にとって不利な条件でも成約させられてしまう可能性がある」といった可能性があります。
譲渡等の金額 | 手数料の率 |
5億円以下の部分 | 5% |
5億円超10億円以下の部分 | 4% |
10億円超50億円以下の部分 | 3% |
50億円超100億円以下の部分 | 2% |
100億円超の部分 | 1% |
なお、成功報酬は、レーマン方式を採用している場合、譲渡企業の株式価値、企業価値、総資産の価値で金額が異なります。
例えば、株式価値をベースとしたレーマン方式では、株式の譲渡価格が8億円とした場合の成功報酬は以上の表から
5億円×5%+3億円×4%=3,700万円
となります。
M&A仲介会社を報酬で選ぶ際のポイント
M&A仲介会社を選ぶ際に重要なポイントになるのは、成功報酬の中身・その他の費用・最低手数料の3つです。以下、それぞれについて説明します。
成功報酬の中身
現在、M&A仲介会社の多くではレーマン方式をベースとした成功報酬制を導入していますが、その際に注意したいのが報酬の算定の元となる成功報酬の計算方法と元になる金額です。
成功報酬額の算定のベースとなるものには、株式譲渡対価(売買価格)・移動総資産・企業価値の3つがあり、これらを比較した場合の成功報酬額は通常「移動総資産 > 企業価値 > 株式譲渡対価」
の順で高くなる傾向があります。
「株式譲渡対価」
譲渡側の企業が保有している株式の価値(時価)
「移動総資産」
株式譲渡対価に全ての負債額である「負債総額」(有利子負債を含む)を加えたもの
「企業価値」
株式譲渡対価に「有利子負債」を加えたもの
関連記事:企業価値とは?時価総額や事業価値との違いや算出方法をわかりやすく解説
その他の費用
基本的なM&A仲介会社の手数料は、「着手金+中間金+成果報酬」で構成されています。そのため、完全成功報酬制でない場合には着手金や中間金が発生します。
これらの金額は会社によりそれぞれ異なりますが、中には高額な料金が設定されている場合もあり、その場合には初期費用が大きくなることに注意してください。
また、着手金や中間金はM&Aが不成立の場合には返還されないのが原則のため、この点についてもあらかじめ理解しておく必要があります。
最低報酬額
多くの仲介会社では、成功報酬などについて最低報酬額を設定しています。
そのため、規模の小さな会社がM&Aの仲介を依頼した場合には、予想外に手数料の総額が高くなってしまうことがあります。
したがって、成功報酬を確認するときには単に料率だけを見るのではなく、最低報酬額の設定があるかや、その金額にも注意する必要があります。
着手金がある契約と成功報酬型の契約ではどちらが良い?
以前は着手金やリテイナーフィーを請求する仲介会社が多くありましたが、最近ではライバル間の競争が激しくなったことにより、完全成功報酬制を採用する会社が主流となってきました。
利用者側にとっては、完全成功報酬型のサービスは「料金体系がわかりやすい」「成果に対して報酬を支払うので安心できる」「総額の手数料の見込みがたちやすく資金繰りがしやすい」などといったメリットがあります。
しかし、M&Aで候補先企業の調査やマッチングには一定の労力や時間がかかるため、着手金等がある場合には、充実した調査が期待できる、仲介会社の丁寧なサービスが受けられるといったメリットがあります。また、着手金やその他の報酬がある会社の中には、その分成功報酬を安くしている会社もあります。
なお、成功報酬制については料金の基準となる金額の設定が会社ごとに異なっているため単純には比較しにくい部分もあり、最低報酬額の設定をしている場合には割高となってしまうこともあります。
このように成功報酬制だからといって必ずしも総額で安くなったり、満足のいくサービスが受けられるとは限りません。そのため、実際の利用にあたっては、よく会社の状況を説明した上で複数社から説明を受ける、見積もりを取るといったことをおすすめします。
M&A仲介会社まとめ
M&Aを仲介会社に依頼した場合には、着手金を始め中間金やデューデリジェンス費用、成功報酬といったさまざまな費用がかかります。成功報酬制の場合は、かかる料金の予測がつきやすいため、最近では多くのM&A仲介会社が完全成功報酬または一部成功報酬制を取り入れています。
しかし、成功報酬制では、計算の元となる価格や料率の設定などにより総額が大きくなる場合もあるため、必ずしも割安になるとは限りません。
したがって、M&A仲介会社を選ぶ際には、これらのポイントに気をつけるとともに、本当にマッチングさせられるだけの実力があるかという点もしっかりと見極めたうえで選ぶことが重要となります。