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事業承継

会社を売りたい方は必見。会社売却のメリットデメリットを徹底解説

高齢となった中小企業のオーナー経営者の中には後継者の不在に悩んでいる方も多く、このままでは自分の会社・事業を廃業せざるを得ないとの思いから、自社を売却したいと考える方も増加しています。従来であれば家族や親族に会社を引き継いでもらって、自社の事業を継続してもらうことも一般的でしたが、少子高齢化が劇的に進むわが国においては、後継者となる家族や親族がいないという状況に直面しているのが現状の大きな課題です。

本稿においては、会社を売りたい経営者が増加している理由、会社の売却で得られるメリットやデメリットとは、会社を売却する場合の手法、売却価額を決める方法、会社を売却する場合の手続きなどについて詳しく解説します。


会社を売りたい中小企業の経営者が増えている

多くの中小企業の経営者が引退を考えるような高齢になると、後継者を誰にするか悩むことになります。従来は、後継者となる息子や娘がいて安心して自分が引退した後の事業を任せることができたケースが多かったのですが、現在では後継ぎとなる子どもがそもそもいなかったり、いたとしても親の苦労を間近で見てきたので親の会社は継ぎたくないというケースもあり、多くの中小企業のオーナー経営者は後継者不在の状況に悩んでいるケースがございます。

また、親族以外に自社を引き継いでもらうという選択肢も考えられますが、常に一緒に生活していた家族に比べると自分の事業運営に対する思いをしっかりと引き継いで、会社の経営を継続してもらえるのかという点を不安に思っている方も少なくないのではないでしょうか。

実際に、M&Aコンサルティング会社の株式会社レコフの調査によると、家族を含めた親族内における事業承継の割合は1980年代には6割を超過していましたが、バブルの崩壊後には親族内承継の割合は減少することとなり、2012年時点には5割を割り込む水準まで落ち込んでいます。

参考:https://www.marr.jp/genre/graphdemiru


こうした状況を受けて、従業員や他の会社・経営者などの第三者によるM&Aを活用した事業承継が増加してきました。事業を引き継ぐ側の資金力や経営能力などが問われることにはなりますが、これまで経営してきた会社を廃業をするという選択をしたケースと比較すると、下記のような数多くのメリットを挙げることが可能です。

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会社を売ることで得られるメリット【廃業と徹底比較】


(1)経営者の利益の確保

会社を売却することのメリットとしては、オーナー経営者は会社の売却代金を得ることができるという点があります。事業承継(会社売却)の手法が株式譲渡や事業譲渡など(後継者不在のM&A手法としては、一般的には株式譲渡の手法を用いることが多いと考えられます)の場合には、会社や事業を売却する対価がオーナー経営者には支払われることになるため、経営者としての利益を確保することが可能になります。

また、高齢となって引退を考えていた経営者にとっては、引退後の生活を支える資金を獲得することができると言う点においても大きなメリットになると思われます。引退後に介護が必要な状態になってしまうかもしれないし、重い病気にかかってしまうかもしれないので、老後資金に不安がある経営者にとっては自社の売却によってまとまった資金を得られることは大きな利点であると考えられるのです。しかし、廃業の場合には会社売却とは反対に費用(廃業コスト)がかかってしまうケースも考えられます。引退後にゆとりがある生活を送るためにも、これまで頑張って経営してきた自分の会社の売却から得られる資金は大いに役立つと思われます。


(2)事業の継承問題を解決できる

自分の会社の後継者が不在で悩んでいる経営者が多いことがわが国の現状ですが、会社の売却はこうした後継者問題を解消することが可能になる手段となります。家族を含めた親族内に対して事業承継をしたいと考えていても、そもそもそうした親族がいない、いても本人が事業承継を拒否しているなどの事情から親族内承継が難しいケースも増えています。

こうした場合には、第三者となる他の会社や経営者に対してM&Aを活用して事業承継するという選択肢を考えることができます。このケースでは、これまで営んできた自社の事業を継続することができるので、従業員の雇用も確保・維持することが可能になりますし、これまでお世話になった取引先との関係も維持できますし、何よりも経営者の思いを汲んでくれる売却先の会社や経営者に対して売却することができれば、売り手側企業の経営者にとっては安心して引退することができるのではないでしょうか。この点が、最も大きなメリットになると思われます。

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(3)事業のさらなる拡大

会社の売却により、売り手側企業の事業が買い手側企業の事業とのシナジー効果を発揮して、従来以上に会社が大きく発展する可能性があります。例えば、製品開発能力には定評があるが、営業力が弱い会社を商品開発能力はそれほど高くはないものの営業力が抜群に強力な会社に売却するようなケースでは、お互いの弱点を補強し合うことによって「1+1=2以上」の結果を出すようになることが期待できます。また、それぞれの事業部門が営業開発や営業に専念することにより、効率的な事業運営を図ることも可能になるものと考えられます。

こうしたシナジー効果の発揮によって、従業員の給与をアップすることができたり、福利厚生制度の内容をより充実させたりすることも可能になるかもしれません。これまでの自分の経営能力だけでは限界があると考えている経営者にとっては、会社の成長と従業員の将来のためにも自社の売却という手法を検討することは選択肢になり得るでしょう。


(4)連帯保証などの個人保証解除

中小企業の経営者の多くは、会社の債務に対して個人保証を差し入れているケースが多いものと考えられます。その多くは連帯保証人として会社債務を保証していますが、もしも会社が債務を支払えないような場合には、経営者に対して銀行などの金融機関は支払を要求してきます。つまり、個人保証は経営者自身の生活におけるリスクであると言ってもよいかもしれません。

しかし、会社を売却してしまえば会社債務に対する個人保証は買い手側企業に承継させることが多いので、旧経営者の個人保証は外れることが多いと考えられます。

個人保証がある場合には、経営者個人の生活へのリスクのみならず、新たなビジネスの展開が難しくなる場合もあるので、経営者にとっては重い負担になってしまいます。また、こうした個人保証があるような状態で親族に会社を引き継いでもらうことは簡単ではないと考えられます。

したがって、会社の売却によって個人保証を外して、身軽になって売却資金を獲得できれば引退後の生活に対する不安も少なくなるものと考えられるので、廃業よりも会社を売りたいと考える経営者が増加しているのではないでしょうか。


会社を売りたい経営者が注意すべきデメリット

続いて、会社を売りたい経営者が注意する必要があるデメリットについて解説します。


ロックアップ

会社を売却したら即座に会社の経営から引退することができるとは限らず、ロックアップと呼ばれる一定期間は、売却後の会社の社長などとして働けなければならないケースがあります。ロックアップについては売却先の企業との交渉によって決定されるのですが、買い手側企業にとっては旧経営者が急にいなくなって事業運営に支障が生じないようにするという意味があり、旧経営者にとってはすぐに引退することができないということになります。


売却後の運営義務を発生する場合がある

会社を売却する契約書にサインをしたら、旧経営者としての仕事が全て終わってしまうわけではありません。様々な契約や許認可などを新たに調整・締結・獲得しなければならないので、そのためには経営者としてビジネスの運営に協力する義務があります。

しかし、こうした様々な契約や許認可などの新規締結や新規取得までには、場合によっては何年もかかってしまうケースもあり得ますので、それまでは会社に残らなければならないことも考えておく必要があるかもしれません。

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競業避止義務

会社法第21条では、事業譲渡の場合の競業避止義務が定められています。競業避止義務とは、売り手側企業の経営者が売却した会社と同じ事業を行ってしまうと買い手側企業が不利益を被ってしまう可能性があるので、売り手側企業と競合するような事業は行なってはならないという義務のことです。

会社法では、同一もしくは隣接している市区町村の区域内において、譲渡した事業と同じ事業を20年間は行うことが不可とされているので、事業譲渡の手法を活用して会社を売却するようなケースではこの点にも注意が必要です。


事業領域の制限が発生する

前述した競業避止義務だけではなく、様々な事業領域の制限が課される可能性がある点にも注意が必要です。競業避止義務を課す場合には、一般的には2年~3年くらいの期間になることが多いようですが、買い手側企業によっては5年くらいの期間を申し入れてくるようなケースもあります。

事業領域の制限としては、当該事業を行ってはいけないというもののみならず、当該事業を起業してはいけない、役員のみならず従業員としても当該事業に関与してはいけない、株主や顧問という立場であっても関与は禁止するなど、様々なレベルで関与してはいけないということを交渉で決定することになります。


会社イメージの低下

会社を売却した場合には、後継者不在などの深刻な背景をよく知らない人々からは、自分勝手に会社の経営を放り出して、従業員や取引先のことも考えずに多額の売却代金を経営者が獲得したなどと、世間から非難を浴びることもあるかもしれません。

また、会社の売却後に業績が大きく落ち込んで従業員の解雇などを実施せざるを得ない状況などになってしまえば、会社を売却した経営者に悪い評判がたってしまうかもしれませんし、会社のイメージも大きく低下してしまうかもしれません。


会社を売りたいときに用いる手法

会社を売りたい場合には、株式譲渡、事業譲渡、会社分割、株式交換といった手法を利用することが可能です。本稿では、各手法のメリットとデメリットについて説明します。


株式譲渡

株式譲渡とは、売却する企業の支配権を取得する、または経営に参画することを目的に売却企業の株主が保有している株式の全部あるいは一部を取得するM&A取引の代表的なスキーム・手法です。また、100%株式譲渡とは全ての株式を取得する取引を言います。

株式譲渡のメリットとしては、売却企業の資産や契約などの全てを買収企業へと引き継ぐことが挙げられます。事業譲渡の場合は譲渡対象が特定の事業となるので、買収対象企業の全ての資産や契約を承継することができません。全ての事業の譲渡の場合でも、企業の支配権(≒発行株式)は売り手企業側に残ることになります。

また、従業員との雇用契約、取引先との業務委託契約といった契約は買収側企業において新規に契約し直すことが必要になることがあります。株式譲渡の場合はこうした手続きは不要であり、企業が保有している資産、契約、許認可などはそのまま引き継ぐことが可能なので、手続きを大幅に簡素化することができます。しかし、株式譲渡では売り手側企業の簿外債務なども買い手側企業が引き継がなければならないというデメリットがあります。

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事業譲渡

事業譲渡とは、企業に取り組んでいるビジネス(事業)をひとつずつ分割して、分割した事業の一部あるいは全てを他社へ売却することを言います。売り手側企業は事業を失ってしまう代価として売却益を手に入れることができ、買収企業側は対価と交換に新たなビジネス(事業)を入手することができるというメリットがあります。また、売り手側企業にとっては不採算ビジネスを切り離して売却することが可能であって、残したい事業は手元に残したままビジネスを継続することができるという点もメリットであると言えます。

しかし、当事者企業間において特に合意がない場合には、売り手側企業には20年間の競業避止義務が課せられるというデメリットがあります。つまり、同一のエリアで売却したビジネスと同じ事業に取り組むことができなくなるので、売却側企業となる中小企業は十分に注意する必要があるというデメリットがあります。また、株式譲渡の場合と異なり、従業員や取引先と新たに雇用契約や取引契約を締結しなければならないという手間や時間が必要になってしまう点もデメリットだと言えるでしょう。


会社分割

会社分割とは、ビジネスに関する権利や義務を分割して対価を得る代わりに、ビジネスの権利や義務を他社へと移転させるM&Aのスキーム・方式です。なお、会社分割はグループ内の事業再編を目的に実施されるケースが多いと思われます。会社分割は、株式譲渡や事業譲渡に比べると他の会社との競争に負けて引退して、他社に取り込まれることになったというマイナスのイメージを持たれることが少ない点をメリットとして挙げることができます。

また、会社分割の場合は、会社分割後も債権者が分割会社に支払いを請求できるケースは債権者保護手続が必要ですが、それ以外の場合には債権者の同意は不要なので、会社の売却ができないような状況にある会社にとっては大きなメリットになると思われます。切り離したい事業があるようなケースでは、事業売却などの手法においては債権者の同意が必要となりますが、そうなるとその事業が切り離せないという可能性が生じてしまうので、M&A取引で売却を選択するのではなく会社分割を選ぶことには利点が大きいと言えます。

一方で、会社分割は財務上や税務上の手続きが煩雑である、簿外債務を引き継いでしまう可能性がある、会社分割の対象となる会社が上場企業でなければ株式の現金化が困難などのデメリットが考えられます。

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株式交換

株式交換とは、ある企業を子会社にして発行済株式の全てを既に設立されている他の企業に取得させることによって、完全な親子会社の関係を構築する創設する方法です。グループの再編(経営統合、子会社の完全子会社化など)によって、経営効率を向上させる目的で利用されます。

株式交換のメリットとは、強制的に少数株主を排除することが可能、株式交換の対価を株式にした場合には買収資金を用意する必要がない、売り手側企業の株主が買い手側企業の株式を得ることが可能などを挙げることができます。一方で、株式交換のデメリットとしては、買収対価として新株発行をする場合には1株あたりの価値が低下することで株価が下落してしまう可能性がある、株式交換の手続きは非常に煩雑なのでクロージングするまでに多くの時間がかかってしまうなどを挙げることができます。


会社の価額はどうやって決まる?算出方法を紹介

会社を売却する価額は、売り手側企業と買い手側企業との交渉によって決定されるものでありますが、その交渉の叩き台として叩き台となる客観的な価額である企業価値を求めることが必要になります。企業価値の算出方法としては、簡易の算出方法、DCF法、修正簿価純資産法、類似会社比較法の4種類を挙げることができます。


簡易の算出方法

簡易的な会社価額(企業価値)の算出方法としては、貸借対象表の純資産と営業利益の2つだけの数値を利用する方法があります。具体的な算出式は、「純資産額」 + 「営業利益額の過去3年分」 × 「調整係数」となります。非常にシンプルな数式ではありますが、ここで注意が必要な項目が「調整係数」です。この「調整係数」には、将来的に成長が期待可能な企業であったり、非常に優れた資産を有している企業であったりするようなケースでは1以上の数字を代入します。反対に、将来的な成長を期待することが難しかったり、ネガティブな事業などを抱えている企業であったりするようなケースでは1未満の数字を代入します。

上述したように、この方法では簡易的に会社の価額を求めることができますが、この算式では会社の事業内容や事業規模、資産や負債の状況などを全く勘案していないので、あくまで参考としての認識を持ったうえで利用することをおすすめします。

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DCF法(ディスカウンテッドキャッシュフロー法)

企業の将来的な収益力に着目する、インカムアプローチの代表的な会社の売却価額の算出方法が「DCF法(ディスカウンテッドキャッシュフロー法)」です。DCF法とは、将来的に予想されるフリーキャッシュフローをリスクに応じた割引率を使用して現在価値に割り引いた金額を企業価値とする方法で、M&A取引に限らず様々な投資判断などにおいても活用されている方法です。

DCF法を利用して企業価値を算出するためには、最初に一定期間の事業計画を策定したうえで、その事業計画の期間におけるフリーキャッシュフローを予測します。フリーキャッシュフローとは、企業が事業活動で稼いだキャッシュのうち、自由に使うことができる資金で営業キャッシュフローから投資キャッシュフローの金額を差し引いて算出できます。割引率は「加重平均コスト」とも呼ばれており、借入などの負債で調達したことで債権者から要求されるコストと新株発行などの資本調達をしたことで、投資家から要求されるコストを加重平均したコストのことです。企業やビジネスのリスクを十分に踏まえたうえで、割引率を決定する必要があります。その後、その割引率を使い、一定期間のフリーキャッシュフローを現在価値に割り引いて企業価値を計算します。


修正簿価純資産法

企業が保有している資産の価値に着目する、コストアプローチの代表的な企業価値算定方法が「修正簿価純資産法」です。修正簿価純資産法とは、バランスシート(貸借対照表)上の資産・負債を時価で評価し直して(簿価を時価に修正して)、純資産の時価評価額を株式価値とする方法です。つまり、簿価を時価に評価し直した資産総額から、簿価を時価に評価し直した負債総額を差し引いたもの(修正簿価純資産額)を求めるのです。

修正簿価順資産法は、バランスシート(貸借対照表)に基づいた算出方法であるため理解しやすく、中小企業のM&Aでも利用し易い企業価値の算定方法であると言えます。資産の価値に焦点を当てているので、多額の資産を有している企業や社歴が長い会社などの企業価値算定に向いていると考えられます。


類似会社比較法

企業の市場価値に着目した、マーケットアプローチの代表的な企業価値算定方法が「類似会社比較法」です。類似会社比較法とは、類似している上場企業を抽出・選定して、その企業の利益や株価などをベースにして対象となる企業の企業価値を算定する方法で、倍率法、マルチプル法などとも呼ばれています。買い手側企業が、買収価格を試算するケースに利用されることが多いようです。


会社を売りたい場合の手続き・流れ

会社を売りたい場合の手続き・流れについて説明します。


会社の売却目標の設定・売却戦略の策定

準備段階としては、最初に会社売却の目標を設定したり売却戦略を策定したりすることが必要です。会社を売却する具体的な目標や戦略がなければ、最終的な目標である会社を売却するというゴールまで辿り着けない可能性もあり得ます。

会社の売却には様々なステップがあり、売り手側企業として意思決定をしなければならない局面もありますし、複数の選択肢から選ばなければならないケースも生じますが、そうした際に判断の拠り所となる目標や戦略を最初の段階で決めておくことには大きな意味があります。


M&Aアドバイザリー会社の選定

準備段階としては、次にM&Aアドバイザリー会社を選定します。M&Aアドバイザリー会社とは、会社の売却を含む様々なM&A取引に関する豊富な経験と知見を有しているM&Aの実務面を支援してくれる会社です。費用の多寡も重要な要素ではありますが、信頼のおける評判の高い会社を選ぶことがより重要です。


売却相手の探索

準備段階の最後は、会社の売却相手を探すことになります。売り手側企業は売却先の候補となる企業をリストアップしたうえでロングリストやショートリストを作成し(M&Aアドバイザリー会社に作成してもらうこともあります)、自社の希望にマッチした売却候補先の企業を絞り込みます。


基本的な条件の交渉・スキームの決定

売却候補先が見つかると交渉段階へと移行します。交渉段階の最初には基本的な条件の交渉を実施して、この交渉で話がつけば基本合意書の締結へと進みます。条件交渉では会社を売却するスキームを決めます。株式譲渡や事業譲渡などの会社を売却する具体的な手法やスキームを決めることで、今後必要となる手続きなどが明らかになります。


トップ会談の実施

スキームが決定したら、両社のトップによる会談が実施されます。このトップ会談で、企業経営における考え方や事業運営の方針などを共有することで、会社の売却を円滑に進められるようになります。トップ会談を無事にクリアして、会社売却の金額水準や基本的な条件が固まってきた段階で、「意向表明書(LOI、Letter Of Intent)」を買い手側企業が売り手側企業に提出します。


意向表明書の提出・基本合意書の締結

LOIが提出され交渉がさらに進んだ段階で、「基本合意書(MOU、Memorandum of Understanding)」を双方で結ぶことになります。MOUは法的な拘束力は有していないものの、最終的な契約に関する骨子となる重要なものなので最終契約書の方向性を定めるものとなります。


デューデリジェンス・バリュエーションの実施と最終契約書の締結

MOUを締結したら、デューデリジェンス(DD、Due Diligence)バリュエーション(Valuation)を実施します。デューデリジェンスとは、売り手側企業の様々な分野(財務経理、税務、リーガル、ITシステム、人事労務など)に対して必要に応じて実施される企業調査のことです。一方、バリュエーションとは、買い手側企業によるデューデリジェンスの結果を踏まえて、あらためて企業価値を評価することを言います。デューデリジェンスやバリュエーションの結果に基づいて、最終的な交渉を実施して最終契約書の締結となります。最終契約書には、コベナンツ条項(クロージング手続きの前後で売り手側企業や買い手側企業が果たさなければならない義務のこと)、表明保証(デューデリジェンスで見つかった事象以外にはリスクがある事象が存在しないことを表明して保証すること)、クロージング条項(クロージングを実施するために充足しておくべき必要がある条件のこと)などが盛り込まれます。

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クロージング

最終契約書が締結されると、いよいよクロージングの段階へと進みます。クロージングの手続きに向けて、株式譲渡などの会社売却の手続き、債権者保護手続き、独占禁止法に関連する手続きなどの準備をしなければなりません。こうした準備を完了したら、株式譲渡などの会社売却手続きの実行、対価の支払などのクロージング手続きを実施して、株式の名義書き換えなどの事後処理も実施します。こうしてクロージングが完了したら、PMIと呼ばれる企業統合段階へと移行することが一般的です。


赤字会社を売るにはどうすべきか


赤字でも問題ない場合もある

一般的には、赤字の会社は売れないと考えている人が多いと思われますが、確かに売りにくいという面はあるものの、赤字会社は売却することができないわけではありません。慢性的に赤字体質の会社であって債務超過に陥っているような会社の場合には、会社を立ち直らせることも簡単ではないでしょうし、買い手側企業は再生手続きに余計なコストが生じてしまう場合が多いのではないでしょうか。

しかし、繰越欠損金を抱えている赤字会社を買収する場合には、買い手側企業の黒字と売り手側企業の繰越欠損金を通算することが可能になるので、節税効果を期待することができます。また、赤字が一過性のものであって、赤字企業の事業の将来性が見込めること、優秀な従業員が多数在籍していることなどの場合には、赤字であるが故に会社の売却価額も安くなるものと考えられるので、結果的には効率的な(コストパフォーマンスが高い)企業買収ができたということも考えられるのです。

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会社を売りたい経営者が知っておくべきポイント

会社を売りたい経営者が知っておくべきポイントを、下記に列挙します。

  • 売りたい会社の企業価値の向上を図ること
  • 会社を売却する目的を明確にすること
  • 会社売却の条件にプライオリティ(優先順位)を付けておくこと
  • 社長への依存度を下げておくこと
  • 会社売却に関する情報の漏洩には注意すること
  • M&A取引に関する専門家を最大限に活用すること

自社の企業価値をアップしておくことで買い手側企業も見つけやすくなりますし、売却目的を明確化しておくことで手続きが進んで行く中で、迷った場合の指針(拠り所)がはっきりしているという安心感にも繋がります。また、会社を売りたい場合に全ての希望条件を満たすことができないのは当然かもしれないので、何が優先すべき条件なのかを明確にしておくことは重要です。

また、多くの中小企業では社長への依存度が高いと思われますが、社長がいなくなっても事業が自律的に運営できるような体制を構築しておくことは、会社売却を円滑に進めることができる重要な要素になります。そして、情報の漏洩によって会社の売却が進められなくなってしまうリスクもありますので、情報管理には細心の注意を払うようにしましょう。そして、M&A取引に関する専門家は些細な疑問などであっても、プロならではの視点で回答してくれるはずですので極力相談・活用することが重要になります。


会社売却まとめ

後継者不在などを理由に会社を売りたいと考えている中小企業の経営者は増加しており、様々なM&Aの手法を活用して会社売却を実施しています。会社の売却によって経営者が儲かるかどうかという視点よりも、従業員や取引先の幸福感や満足感にも配慮した企業売却が重要です。

また、会社の売却においては様々な段階があり、多くの手続きを実施することが必要になります。こうした手続きに関しては、会社売却というM&A取引に精通した専門家を十分に活用することにより、売り手側企業の経営者にとって満足度が高い取引を実行することが可能になります。そのためにも、豊富な経験や知見を有している信頼度が高いM&Aアドバイザリー会社などの専門家と契約を締結することが極めて重要になります。

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