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債務超過とは?会社売却(M&A)は行える?成功のポイントを徹底解説

債務超過は、債務が資産を上回る状態なので、倒産しそうな状態でM&Aは実施できないのではないかと思う方も多いかもしれません。しかし、必ずしも危険な状態とは限らないのです。債務超過企業であっても、会社売却を行える可能性はあります。

また、債務超過企業の会社売却は事業再生のメリットがあります。今回の記事では、わかりやすく債務超過を説明し、その状態でも会社売却を成功させるポイントについて解説します。


債務超過とは

まずは企業にとって債務超過が意味するものをわかりやすく示し、赤字や資金ショートとの違いについても解説します。


債務超過の意味

企業の財務状態を端的に表す用語のひとつである債務超過とは、企業の資産合計を負債合計が上回る状態を意味します。資産とは売掛金や普通預金などの正の価値を持つもので、負債とは買掛金や借入金などの負の価値を持つものです。

わかりやすくいえば、全ての負債を返すために保有する全ての資産を返済に充てたとしても、返しきれない状態が債務超過です。

中小企業庁の調査によれば2007〜2016年までの10年間において、少ない年で31.0%、多い年で37.1%、平均で34.8%の企業が債務超過に陥っていることが明らかとなっています。実に、10社に3社以上が債務超過ということです。

参考:2019 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan 第1部 第3章 財務データから見た中小企業の実態


債務超過には、以下の2つのパターンがございます。

簿価債務超過:貸借対照表上で資産を上回る負債がある状態

実質債務超過:企業価値を時価に修正する「評価替え」や「のれん代」(ノウハウや技術など)を加算しても負債が資産を上回る状態

簿価債務超過はその状態に陥れば、経営者はただちに認識できます。しかし、実質債務超過は詳しく調べてみなければわかりません。つまり、知らないうちに債務超過に陥っているケースがあります。

債務超過は企業にとって決して良い状態ではありませんが、すぐに倒産するというわけでもありません。


例を挙げると、以下のような場合も債務超過になります。

 金融機関から融資を受けた開業資金を使って起業したばかりの場合

 利益は出ているが事業拡大のための設備投資に充てた借入額が大きい場合

つまり、ある瞬間を切り取って債務超過であってもそれ自体は問題なく、キャッシュフローがいずれ債務超過を解消できる状態にあるかどうかが重要です。


赤字や資金ショートとの違いについて

まず赤字とは、会計年度という範囲が限定された期間内で、支出が収入を上回る状態を指します。初期投資や設備投資で経費の支出が増えると、その年度が赤字になることは珍しくありません。翌年以降の収入によって出費を埋められれば、問題はないのです。

次に、資金ショートとはもう少し深刻で、手元資金が底をついて支払い期日になっても支払いする資金がない状態です。家賃や従業員の給料、借り入れの返済などが支払えなくなると事業継続に支障をきたします。

資金ショートは放っておくと倒産につながるおそれがある、緊急性が高い状態です。


債務超過企業のM&Aとは

債務超過企業のM&Aは、決して簡単に成功するものではありません。しかし、技術力や人材力、シナジー効果をアピールすることで買い手の評価を獲得できれば、会社売却に結びつく可能性があります。

業績が悪化した理由や実際の財務状態を明確にしておくほうが、交渉相手も統合後の事業展開を考えやすくなるため、交渉が進みやすくなります。

また、取引金融機関に対して債権カットの交渉を試み、役員借入金などがもしあれば処理を済ませておくなど、事前に財務内容を少しでも改善する努力を惜しまないことも大切です。


債務超過企業が会社売却を行うメリット

債務超過企業が会社売却を行う主なメリットは以下の通りです。

● 倒産の回避

● 事業の再建

● 財務の健全化

● 債務整理の円滑化

● 売却益の獲得

個別に詳しく見ていきましょう。


倒産の回避

債務超過に何の手も打たないままであれば、確実に倒産が進んで会社売却を行うことで回避できる可能性が生まれます。会社売却によって従業員の雇用を守り、地域経済や顧客への影響を抑えられ、結果的に倒産よりも経営者の信頼は保たれます


事業の再建

債務超過企業が単体での経営再建は困難であっても、M&Aで買い手企業に統合されることによって事業の再建の可能性が生まれます。

盤石な経営基盤の企業グループに加わって、母体の経営リソースを駆使して事業を再建し、さらに拡大路線に進めるケースもあります。


財務の健全化

債務超過の主要な原因が、コア事業ではなくノンコア事業にあった場合、その事業を求めている買い手企業があればそこだけ切り離して売却する選択肢があります。そうすれば財務の健全化が実現し、経営リソースをコア事業に集約することで業績拡大を目指せます。


債務整理の円滑化

債務超過が続いて、すでに倒産が不可避の企業であっても、売却できる事業があれば債務整理が円滑になります。売却代金を弁済に充てられるため債権者側も債権回収率が高まるので、債務整理の手続きや協議が進みやすくなります。

また、売却した事業に関わる雇用は守られ、ブランド価値の劣化も起こりにくく、その事業だけでも存続させられます。


売却益の獲得

債務超過の会社を整理する場合は、すべての資産が弁済に充てられ、経営者や株主の手元にお金が残る期待はできません。それでも会社売却を行えば、経営者や株主が利益を得られる可能性があります。

事業を再生して収益構造が実現できる可能性がある場合、買い手企業は負債を引き受け、企業の将来価値に見合う価格で買収しようと考えることがあるのです。


債務超過企業の会社売却の手法(スキーム)

債務超過企業の会社売却の手法は、主に以下の通りです。

● 株式譲渡

● 事業譲渡

● 吸収分割

● 新設分割

● 第二会社方式

それぞれの手法を詳しく見ていきましょう。


株式譲渡

株式譲渡は、売り手企業の株主が株式を買い手企業に一部もしくは全部を売却し、会社の経営権を譲渡して子会社として存続する手法です。

株式譲渡は他の手法に比べて手続きがシンプルなので、現代のM&Aでもっともよく用いられます。会社自体も株主が変わるだけなので、表面的な変化もルールの変更もひとまずは皆無です。


事業譲渡

事業譲渡は特定の事業の権利義務を、商法にもとづいた売買取引契約により買い手企業に譲渡する手法です。

譲渡された事業は、買い手企業の一部となります。譲渡に際して、その事業に紐づく全ての権利義務を個別に移転する必要があるため、手続きは煩雑です。小規模の事業売却で用いられることが多いです。

事業譲渡は譲渡する対象を選別できるので、売り手企業としては分離したい事業、買い手としては欲しい事業だけを売買できます。


吸収分割

吸収分割は事業譲渡と同様に、事業の権利義務を買い手企業に譲渡する手法です。また、目的としてもノンコア事業の切り離しで活用されるケースが多いのも、事業譲渡と似ています。

ただし、事業譲渡が商法にもとづく取引であるのに対し、会社法に基づいた取引が行われます。そのため、権利義務が包括的に承継されるので、個別に移転する手続きは必要ない点が事業譲渡と大きく異なります。


新設分割

新設分割は、買い手企業が対象事業を子会社として傘下に置きたいケースで用いられます。売り手企業が一部の事業を新会社(新設分割設立会社)として設立し、買い手企業に株式譲渡によって売却する手法です。


第二会社方式

第二会社方式は、債務超過企業から採算性があるコア事業を存続させるために、会社分割や事業譲渡によってコア事業を別会社へ分離して残った事業を整理する手法です。

手順としてはまず、売り手企業のコア事業の経営権を関連企業などを受け皿にして、譲渡します。その後買い手企業に、受け皿となった企業の株式を譲渡します。

その際に、得られる譲渡益を債務弁済に充てることが可能です。そうすることで、清算協議や手続きを進めやすくするメリットがあります。


債務超過企業のバリュエーションおよび売却金額の決定方法

M&Aでは、対象企業に対してのバリュエーション(企業価値評価)にもとづく交渉により、売却金額が決定されます。

バリュエーションは、大きく以下の3つのアプローチに分かれます。

【コストアプローチ】

評価基準:純資産

具体的な手法:簿価純資産法・時価純資産法

【インカムアプローチ】

評価基準::将来の収益性

具体的な手法:DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)

【マーケットアプローチ】

評価基準:市場取引相場

具体的な手法:市場価額法・類似会社比準法


コストアプローチでは、マイナスの純資産を持っている債務超過企業の価格を設定できません。ただし、時価に置き換えれば資産超過になる場合は、純資産が評価の対象となります。

黒字企業においては、年買法と呼ばれる直近の営業利益を数年分確認して、潜在的な収益力とみなす簡易手法がとられる場合があります。

年買法は、「純資産+営業利益×年数」を企業価値とします。とはいえ大ざっぱな手法なので、倍率年数の設定に合理性がある根拠を求めることはできません。

論理的に企業価値を評価するのなら、DCF法が最適です。DCF法では、将来のキャッシュフローを事業計画をもとにして予測し、シナジー効果や事業のリスクなどを考慮します。そして、ファイナンス理論に基づいた計算により企業価値を評価します。


債務超過で会社売却を行う際の注意点

M&Aでは、売り手企業と買い手企業の利害以外にも、他の利害関係者の利害も問題になります。とりわけ債務超過企業が対象となる場合は、債権者との利害調整が重要です。

新設分割や吸収分割を実行する際には、会社法に基づく債権者保護手続きが必要となります。一定期間を設けて債権者からの異議を受け付け、異議が提出された場合に相応の担保提供や債務の弁済などの対応が必要です。

また、債務整理が必要なケースで取引を円滑に進めるには、債権者の理解を得る必要があります。売り手企業と買い手企業、債権者の三者間の取引と見なして事を運んでいくのが適切です。


特に注意すべきは、会社売却が詐害行為であると指摘されて取り消しを要求されるケースです。コア事業が買収された場合、債権者は実質的に債務の弁済を期待できなくなります。

債権者に不利益を与えることを承知で、売り手と買い手のみで協議が進められた場合には、債権者は裁判所に取り消しを請求できます。こうした不都合な事態を避けるには、債権者の利害を考慮して協議を行った上で実行することが欠かせません。


債務超過企業が会社売却を成功させるポイント

債務超過企業が会社売却を成功させるためのポイントとしては、以下の3つが挙げられます。

● 明確な戦略を立てる

● 早めに動き出す

● 好意的な買い手を見つける

個別に見ていきましょう。


明確な戦略を立てる

会社売却のための戦略としては、主に以下の3つの方向性があります。

【自社全体を売却】

【ノンコア事業のみ売却してコア事業を継続】

【コア事業を売却して他の事業を清算】

市場における自社の位置付けを客観的に分析し、財務状態の実態や強みと弱みを明確にした上で、どの方向性が妥当かを判断することが重要です。


早めに動き出す

債務超過の状態が長引けば長引くほど企業価値は下がっていき、会社売却の難易度は上がっていきます。倒産が不可避の状況に陥ってからでは、会社売却を望ましい条件で行うことは不可能になります。

M&Aという選択肢を長期的な展望のもとで経営戦略のひとつのオプションととらえ、望ましい条件で会社売却を行うためにも、売ると決めたら早めに行動を起こしましょう。


好意的な買い手を見つける

潜在的な収益性をしっかり評価してくれる好意的な買い手であるほど、売却価格にも期待できます。

潜在的な収益を評価するということは、統合後のシナジー効果を期待していることを意味します。シナジー効果が出れば、買収先に引き継がれる人材にとっても望ましい環境が期待できます。


債務超過まとめ

債務超過はそれ自体では危険な状態とは言えず、あくまでキャッシュフローの実態から先々の状態を見極める必要があります。

部分的、もしくは全体的に明るい要素が見出せれば、前向きなオプションとして会社売却を検討することも意味があります。会社売却に踏み切る際は明確な戦略を立てて早めに動き出し、好意的な買い手を見つけましょう。

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